パソコンから！ケータイから！スマホから！無料でどこでも気軽に楽しめる官能小説サイト

第22章 遠い街角

安藤さんに見られぬように然り気無く目を擦って涙を拭った。


…バカ。

私から言い出した事なのに、今更後悔して泣くなんて安藤さんに悪い。

慌てて笑顔を見せようとしたが、今は自然な笑顔を作る自信がなかった。


「大丈夫です…。起きてましたから」

「そっか。準備が出来次第、出発しようか？」

「…………っ」



そう。

昨晩、涙ながらに話す私を見てただ事じゃないと察してくれた安藤さんは急遽予定を早めてくれた。

本来なら今日の夜にここを出ていく予定だったのに、私を連れ出すために出発を朝一に変更してくれたのだ。

一分一秒でも早くこの屋敷を出たい願う私の為に。


「すいません…、私の我が儘で…」

「気にしないで。一旦部屋に戻って荷物の整理してくるから、椿ちゃんもゆっくり準備してて。また後で迎えに来る」

そう言って部屋のドアを閉めて安藤さんは出て行った。



安藤さんの台詞で、益々現実味を帯びてくる。

この屋敷にいることは今までの私にしてみれば夢みたいな話だったのに、いつしかこれがリアルになり慣れて来てしまっていた。

そして、いつしか椎葉さんがそばにいることも当たり前のようになっていた。

だけど、今日でこの屋敷ともお別れ。

この屋敷を出ていくと言う事が何だか夢のように感じてくる。



あんなに望んでた下界へ帰れるのに、私の心は今にもまた泣き出しそうになっていた。




今日から、椎葉さんは私の傍にいない。




それが、こんなにも苦しいなんて…。