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Dolls…
第22章 遠い街角
スケッチブックも捨てられたと思ってたのに、ちゃんと残しておいてくれてたんだ。

「これ、ずっと椎葉さんが…?」

「大事なもんなんだろ?そのスケッチブック」



美大志望の私にとってこのスケッチブックは命のようなものだ。

本当はこの屋敷の絵を描きたくて持って来たもの。

椎葉さんに見つかって没収されてしまったけど、今また再び私の手に帰って来た。

「…ありがとう、ございます」


そう言えば、いつだったか椎葉さんは私の絵を誉めてくれた。


"タッチが力強い"とか"線がしっかりしてる"とか言って。

それまで自分の描いた絵を誰かに見せたことなんてなかったし、誉められる事もなかった。

美大に進む自信すら失いかけてた時だったから、椎葉さんの言葉が妙に嬉しかった。


「体に気を付けろよ」

「え…?」

「元気でな…」





……椎葉さん。



私にはもう興味がないとか言ってたくせに、忙しいから見送りも挨拶も断ったくせに、何を最後の別れ際で…。

ぐっと噛み締めた唇。

鼻の奥にツンッと込み上げる涙を堪えるので精一杯だった。

椎葉さんの台詞を聞いた瞬間、本当にもうお別れなんだと改めて実感した。

ここを出たらもう椎葉さんとは会えない。

もう、この屋敷に戻って来ることもない。


「……心配しなくても俺が着いてるから」

私の椎葉さんの会話を遮るように私の背後から安藤さんの声が聞こえた。

「……そうだな」



どうしよう。

何か言わなきゃ…。

ここを出たら本当にもう椎葉さんには会えなくなる。

この屋敷を出て、この山を下りたらもう会えない。

会えないんだ…っ。


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