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Dolls…
第23章 危険な香り
受話器から聞こえたその声…。

聞き間違える筈などない。

その声を聞いただけで私の心は跳ね上がった。


電話だし多少のノイズが交じってクリアには聞こえないがこの声だけは聞き間違えない自信があった。



再び受話器を持つ手が震え出しお風呂上がりだというのに全身の毛穴から汗がじんわり滲み出てしまう。

だけど、私の心をこれだけ掻き乱す声の持ち主は1人しかいない。

どんなに待ちわびて、どんなに恋しかったか。











「し、いば…、椎葉さん…?」

『………久しぶりだな』
















それは、紛れもなく椎葉さんの声だった。

激しく鳴り響く電話の主は椎葉さんだった。












「お久しぶりです…」


久しぶりに聞いた椎葉さんの声。

それは他愛ない電話での第一声だけど…。

私の心と涙腺を破壊するのには充分過ぎるものだった。


椎葉さんの声を聞いただけで私の瞳には溢れそうなほど涙がじわじわと浮かんでくる。


『尚人は?携帯にかけたのに全然出ねぇ』

「あ、安藤さんは今お風呂です…。だから固定電話にかけたんですか?」

『風呂か。あいつは連絡無精なところがあるからこれくらいしつこくコールしねぇと出ねぇんだよ』




嬉しくて…、嬉しくて嬉しくて涙声になる私をよそに椎葉さんの声はいつもと同じように冷静だった。

どうやら、嬉しいのは私だけのようだ。

だけど、例え一方通行でも私は嬉しかった。

椎葉さんの声が聞けたことが…。

久しぶりに椎葉さんを感じれたことが…。

例え一瞬の他愛ない世間話でも。



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