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第23章 危険な香り

私を睨み付ける安藤さん。

だけど、これ以上安藤さんに触れられたくない。


私の体に染み付いた椎葉さんの跡を消して欲しくない。


「安藤さん…、私は奈々さんじゃない。奈々さんの変わりにはなれません。私は…」

椎葉さんの元に戻っても私は所詮人形のモデル。

それに、椎葉さんには2度と会えない。

触れてももらえない。

だけど…

それでも、いい…。



「私が好きなのは…、今も椎葉さんだけなんですっ！」



例え2度会えなくても、触れてもらえなくても、心の中に想う誰かがいるだけで幸せだから。

今の私にはこの胸の痛みだけが全てだ。

この胸の痛みこそ私が椎葉さんを好きだと言う確かな証。


踞る安藤さんにそう宣言したはいいが、それを聞いた安藤さんはクスクスと笑いながらゆっくりと起き上がり出す。


「あ…」

「クスクス…。そうやって奈々もボロボロになったんだ…。俺の元にいれば傷つくこともなかったのに…」


安藤さんのその出で立ちに私の中の恐怖が増幅して行く。

安藤さんが立ち上がったその時、私は安藤さんに捕まってしまう。



そう思った瞬間、私はフラフラになりながらも震える足で何とか立ち上がりその場から逃げようとした。

恐怖で膝が震えて上手く走れなくてテーブルや壁に激突しながらもリビングから這うようにして逃げ出した。



「やめてっ！来ないでっ！！」

だけど、こんな足で遠くに逃げられるはずがない。

このままじゃどのみち安藤さんに捕まってしまう。


「何処に逃げる気？そんな格好じゃ外にも出れないでしょ？」

安藤さんは私を追い詰めるのを楽しむかのように本気は出さず早歩きだけで私に近づいてくる。

確かに、胸元が露になったこんな破れた服じゃ外には出れない。