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Dolls…
第6章 甘い嫉妬


看病してくれたからと言って、馬鹿正直にここに止まる必要はない。

椎葉さんが見せた優しさに胸が熱くなったけど、あれは高熱が見せた幻に過ぎない。

あんな人、私は大嫌いだ。


「はぁ…頭、痛…」


微熱にまで下がったとは言っても病み上がりの体でこの広いお屋敷内を歩き回って大丈夫だろうか…?

それに、もし椎葉さんに見つかったら…。

「……………っ!」

考えてる暇なんかない…っ。

考えるより先に行動する…、それで今まで生きて来たんだから。



フラフラする足取りで部屋を出て、長い廊下を小走りに急いだ。

ここに来た時だって手ぶらで来たようなものだし、持って逃げるものなんかない。


地下の撮影スタジオに向かう途中に通った道順は必死に思い出した。

とりあえず、1階まで降りれれば後は窓からでも逃げればいい。

さすがにこの階の高さから飛び降りたら大怪我は間違いないし、打ち所や落ち所が悪ければ即死の可能性だってある。

とにかく、1階まで何とか…。

薄暗く、迷路のような廊下を右へ曲がったり左へ曲がったり…。



私は、ここから逃げるんだ…。

早く、ここから━━━━━━。



体に汗を滲ませ、目眩に襲われた時は壁に寄りかかり、とにかく逃げる為に足を前へ前へと進ませようとした





けど、何故か

ふっとした時に頭を過るのは、椎葉さんのあの笑顔だ。


私を看病してくれたあの大きな掌と、優しい眼差し。

前へ進もうとする足が、時折躊躇するかのように前へ進むことを拒む。




な、何であんな人の事を思い出すだけで足がすくむのっ?

あんな奴、大嫌いなのに…。

あんなの、高熱が見せた幻のはずなのに…っ。





「はぁ、はぁ…っ、熱…」



熱がぶり返したのか、階段で座り込んでしまった。

ここまで来たのに、情けない。






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