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新月
第2章 新しい主人
古めかしく巨大な杉の木で作られた門には、

『藤木』

と大きく書かれた表札がついている。


これからチヨが住み、また、使用人として働く御屋敷である。


チヨの母、テルはずっと藤木の御屋敷で使用人として働いていた。

これからはテルのかわりにチヨが働くのである。

もっとも、10歳の小娘に真っ当な仕事が出来るはずもなく、



(わたしはこれからどうすればいいの——。)


大きな背中の藤木の後について、とぼとぼと歩いて行くしかなかった。

長い廊下を歩いていると、

「チヨ坊、

チヨ坊にお願いがあるんだ。」


藤木が前を歩きながら、チヨに話しかけてきた。


「はい。」


「チヨ坊も知っているだろうが、この屋敷には私と私の息子、あと数人の家従がいる。

知っているね。」


「はい。」

チヨは母から聞いたり、また、この屋敷の家従とも話したことがあるので、旦那様に奥様がいないこと、また、旦那様の息子が同い年であることは知っていた。


「チヨ坊には、私の子の世話をお願いしたいのだよ。」



チヨは、へ?

と呆れた声を出してしまった。




(世話するとなると同い年の坊ちゃんのお世話??)


よくわからない———と、顔に出てしまったのだろう。

歩く足も止まっていて、藤木との間に距離が出来てしまった。




藤木は振り返りもせず、歩みを進める———。


「こちらへおいで。」



慌ててチヨは追いかける。


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