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狂い咲き
第2章 狂い咲き 2
 あれから一年が過ぎようとしている。

 なんども忘れようと、心に誓うのに。

 初めて出会った彼は優しかった。

 結婚まで考えた彼に、あっさりと捨てられ、私は一人、ショットバーで夜を過ごしていた。

 誰かに慰めて欲しくて仕方がなかった。

 寂しくて寂しくて、誰かに優しくして欲しかった。

 でも、ときめくような男性と出会うことはない。

 声をかけられても無視をするばかりだ。

 そのとき、声をかけてくれたのが彼だ。

 彼が店に入ってきた来たとき、吸い寄せられるような長身に、すらっとした佇まい。思わず見とれてしまった。

 無意識に感じ取れる知的さと、なんとも言えないクールさが、なんだか格好いい。

 どきどきしながら、私はカウンターに腰掛けながら、彼が近くに来てくれることを祈った。

 彼が、歩いてくる。

 ゆっくりとした歩調で、カウンターまで来ると、なんとも言えない色香と甘い独自の香りが彼を包んでいた。

 彼は一つ席を空けて隣に座ってくれた。

 なんだか嬉しい。

 どきどきしながら、彼の横顔を覗くと、私の視線に気づいた彼が微笑んでくれる。

 でも彼は微笑むだけで、なにも話しかけてくれない。

 言いよる男は、鬱陶しいほどに誘いをかけてくるけど、彼は違った。

 誰かを待っているのだろうか。

 彼なら素敵な彼女がいても可笑しくないよな。

 俯き加減に、私は寂しく笑うしかない。

 静かにグラスを傾けていると、また彼と視線があった。

 思わず目を伏せてしまう。

「お一人ですか?」

 そう問いかけられたときは、もう、どきどきして頷くのが精一杯だった。

 だけど、彼はそれ以上、なにも語りかけてくれない。

 諦めかけた頃、ようやく彼がまた、話しかけてくれた。

「いつもこの時間に?」

 囁くような彼の静かな口調が、落ち着いた雰囲気と、とてもよく似合う。
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