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ネムリヒメ.
第23章 薔薇の刺、棘の鎖.
兄の制止にわざとらしく頬を膨らませ、肩をすくませる望
寒さと怒りに震える雅をよそに、魔王の前であっても望に限ってはどこか嬉しくも楽しそうであった
それにしても、調子のいい態度は相変わらずだが、ここにきて意外の聞き分けの良さをみせる彼
これまでの望からして、こんな素直な態度の豹変ぶりには若干目を疑うものがあるが
それもそのはず…
なにを隠そう、望はお兄ちゃん子なのである
といっても、先までにあがった名前のなかで一番歳下の彼は、少々生意気な面はあるものの、雅を除いた人間には充分になついていたりする
だが、やはり実の兄となれば格別だ
棲んでいる場所こそ違えども、誰よりも慕っているのは渚だ
そんな望を兄の渚も可愛がっていた
だからと言って、魔王・渚が今この状況下で怒りの矛先を雅だけに向けているのは、けして望のことを棚にあげているからではない
望の誘いに雅が無理やり付き合わされたということくらいは、いつものことながら渚にも容易く察しはついている
しかし、多少事情があるにせよこんな時に、だ
渚が怒るのもわけがない
「…お前、わかってんだろうな」
そう雅が咎められるのは当たり前といえば当たり前で…
"次はガチで海な…"
そう吐き捨てた魔王が去ったプールサイドで、心身ともにすっかり冷たくなった雅に望が笑いかけた
「ダッさ…落ちるとかないよね」
「…るせ、誰のせいだ」
「あー…うん♪オレのせいでいいんじゃん♪」
「…クソガキ」
「……え、なんか言った!?」
「もういいわ…」