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あい、見えます。
第4章 見落とさないで



■見落とさないで



今日も、机の上の携帯は、控えめな振動で時間を知らせてくれる。

いつもの場所に手を伸ばし、いつものように携帯を止めると、遥はレコーダーのスイッチを切ってイヤホンを耳から外す。
くるくるとイヤホンをレコーダーに巻きつけてから、携帯を手に取ると、彼女は上体を斜めにして、足元の鞄を手で探った。
これも、いつものように、レコーダーと携帯を鞄にしまえば、身体を戻してキーボードを操作してパソコンをシャットダウンする。

確実に電源が切れているか、横のファンに手をかざして確認すると、閉じたノートパソコンを鞄に入れてから、遥は一つ息を吐いた。

今日の講義は難しかった。
専門用語が多かったから、家に帰ったら自分の打ち込んだ内容を聞き直して確認しなくてはならないだろう。
まだ片付けきっていない自宅に戻るのは、少しだけ億劫だが、そうも言っていられない。
図書館の閉館まで、あと10分だ。

『閉館時刻が近づいています。借りたい本、借りたいCDをお持ちの方は、お早めに受付にお越しください』

館内に薫の声が流れている。
ちょっとだけ、よそ行きの声だ。
子供の頃から聞いている薫の声が、いつもと違うトーンになっていることに、自然と笑みを浮かべてしまう。

微笑んだままテーブルに立てかけていた白杖を手にすると、遥は立ち上がって鞄と席札を持った。

白杖で位置取りを確認しながら、大きな書棚の間の道を抜けて、受付へと進む。
本独特の、インクと紙の匂いを感じつつ、ゆっくり歩く遥の足が、さして行かないうちに、ふと止まった。

(―――え?)

白杖の先に、何かがある。
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