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真夜中の贈り物
第15章 薔薇のひとつ

 貴族家の四男坊で、調子の良い男だ。
 まだ若く、金髪を短く刈ったハンサムで、非番のときには酒場の酌婦を相手に火遊びの盛んな年頃。

 見栄っ張りにな性格で、仲間にもよく食事を奢ったりしており、本来なら次の隊長は自分と勝手に思い込んでいたフシもあり、それでノヴァリスのことを快く思っていなかった。

「おや、物のわかった者もいるとわかって安心しましたわ」

 そう言って、アサージの手を取り馬車へと乗り込んだ夫人は、扉を閉める直前に、ノヴァリスに向かって最後の憎まれ口を叩いた。

「よいこと、なにか粗相をしでかしたら猊下に言いつけて、即刻、馘首にいたしますわよ!」

 ノヴァリスはしかし、眉ひとつ動かさずに慎み深い微笑みを湛えたまま頭を下げるのだった。

「……どうかご安心を、この身に替えましてもお守りいたします」

 そして、そんな彼女を横目に得意げなアサージと、その背後の兵士たちに向かって、命令を下す。

「乗馬!」

 ノヴァリスが命じると整列していた兵士たちが一斉に鞍に跨った。
 彼女もまたすらりとした脚で空を切って、馬上の人となる。

 貴人用の豪奢な馬車を取り囲む近衛兵団。

 晩餐舞踏会が開かれる離宮までへの護衛としてはいささか物々しいが、貴族への不満が高まり、そして食い詰めて野盗、追剥の類に身を落とす人々の多い昨今、用心に越したことはない。

 王都ファリスの最高権力者たる枢機卿の奥方の護衛ともなれば、これぐらいの警戒は当然であろう。しかも、枢機卿とは違って、人望がないどころか民の怨嗟の的なのだから。

「出発!」

 ノヴァリスの凛とした号令が響き渡り、夕陽に兵装馬具を輝かせて、一団は走り出した。
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