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真夜中の贈り物
第15章 薔薇のひとつ

 隊長への任命式で、枢機卿の白亜の離宮に咲き乱れていた薔薇。あのときもこの香りに包まれていた。

 しかし、境遇は比べるべくもない。

 護衛任務に失敗したばかりか夫人を殺害され、その上、裏切り者のアサージにあのように辱められ……。

(しかも、あのような痴態を……!)

 羞恥心ごと洗い流すかのように、浴槽に足を入れたノヴァリスは一気にザブリと湯の中に身を沈めた。

 アサージは死んだ。
 あのフェリックスという男に殺されて。

 表情ひとつ変えずに人の身体を刺し貫いた冷酷な野盗の頭領。

 しかし、あの男にはどこか……他の、ただ野卑なだけの野盗たちとは違った雰囲気がある。何を考えているかわからないが、欲望のままに動く人間ではない、理性と深慮遠謀が瞳の奥に感じられた。

(彼はこれから私をどうするつもりだろう……?)

 この部屋に連れて来られる際、「話をしたい」と告げられた。

 話。なにを話すというのか?

 もちろんそうだ。鍵の在り処のことに決まっている。

 そして鍵を手に入れて何をするのか?
 王都の兵舎の武器庫を襲撃し、武器を手に入れるつもりか。そうまでして武装して何をするのか……!

 そもそも、彼らはすでに斧や剣などを所持しているではないか。
 ならば、手に入れた武器を使うのは誰だ。いまだそれらを手にしていない者……。

 その想像の行き着く先を慮ってノヴァリスは蒼ざめた。
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