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Complex
第2章 始動
友香は無意識にその様子を眺めていた。
彼はそんな友香にまったく気がつく様子もなく、トレーニングを終えるとタオルで顔を拭う。
その無造作な仕草までも見つめていると、目が合ってしまった。

つい、ぺこりと会釈をすると、男性がそのまま近づいてきた。

「すいません、使います?」
「あ、いえ。山口さん待ってるだけなので。大丈夫です」
「時間もったいないなぁ。次は何するの?」

次のメニューは、腹筋と背筋と言ってたっけ。
わからずにバインダーに挟まっていたメニュー表を開くと、その男性が横から覗きこんだ。

「ああ、あれ?使い方わかる?」

彼が指差したのは、ちょうどさっきまで彼が使っていたマシーン。
初日の講習では習わなかったな。
素直に友香は首を振った。

「おいで」

彼はそう言うとおしぼりで手すりを拭いてくれた。
彼に促されるまま、細い椅子のような機械に座る。

「よく、来られるんですか?」
「そうですね、ほぼ毎日。仕事の合間にですけど」

彼は綾瀬と名乗った。
駅前で飲食店を経営しているらしく、仕事前にここで体を鍛えるのが日課らしい。
さすがに年齢は聞けなかったが、話してみると思ったよりも落ち着いている。

山口が戻るまで、綾瀬がアドバイスをくれる。
的確なその言葉は、山口よりもわかりやすい。
かなり長くここに通っているのだろう、すれ違うスタッフとの会話からも察することができた。

乾き始めた汗が再び溢れ出る頃、ようやく山口が戻ってきた。

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