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Complex
第2章 始動
「お疲れ様。すっきりした?」

体を動かしたことへなのか、意図がわからないままも頷く。

「聞きたかったんだけど。小林さん。下の名前、なんて読むの?ともか?ゆか?」

カルテを覗き込まれていた時に見られたのだろう。
そういえば、綾瀬には名乗ってもらったのに、自分からは何も告げていなかった。
そんなところまで見てるなんて、マメだなぁ。

「ともか、です」

「ともかちゃん?かわいいね。うん、ともかちゃんって感じだ」

ちゃん付けで呼ばれるなんて何年振りだろう。
自他共に認める仕事人間。
そんな風に名前を呼ばれるだけで、なぜだか甘やかされている気分になる。

「ね、今日はもう時間ないけどさ。今度、食事でも行かない?」

ストレート過ぎる言葉に我を忘れて笑顔を見せてしまう。
また、悪い癖。
誘われればすぐについていってしまう。
自制心でそう思いながらも、気がつけば首を縦に振っていた。

「友香ちゃんは、しばらく休みなんだっけ?今度の水曜、空いてる?」
「空いてます、けど…」
「じゃあ、その日、予約ね。ここで体動かしたら、食事行こう。水曜は俺休みだし」

よくわからないまま約束をしてしまう。

けれど、誰かと約束なんて久しぶり。
しかも相手は魅力ある男性だ。

約束を取り付けると、彼は足早にロビーを後にした。

綾瀬の後ろ姿。
くせ毛なのだろうか、毛先を丸めながら無造作に結ばれた髪は、友香の今のそれよりも長い。
そのゴムを解いたとき、はらりと垂れる髪は日本人にしては濃い顔立ちを際立たせるのだろう。
そんなことを考えながら、友香は以前と同じように、まっすぐに前を向いた。
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