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Complex
第3章 変化
付き合って一年半。
流石に30代半ばになれば結婚を意識する。
圭太は10歳も年下の彼女と結婚を前提にこの半年ほど同棲していたらしい。

「確かに頼りすぎなとこはあったと思うんだけどさー。でも、酷くない?何も言わずに、仕事から帰ってみたら、荷物ごとごっそり消えてんの」
「ケンカでもしたの?」
「ケンカっていうか。なんか勝手に向こうがキレて、終わった」
「何それ」
「ほんと、何それだよなー」

酔いが回り出したのだろうか、圭太は机に突っ伏したかと思うと、足をばたつかせている。

「私はあなたのお母さんじゃない、って、言われた…」

彼には似合わない真面目なトーンで、話は続く。

「そりゃ、ご飯も弁当も毎日作ってくれてさ。知ってる?最近の女の子って弁当すげーこだわるの。ハート型の飾りとかさ、毎日のように入ってたんだよ。なのに、いきなりこれは、ないよなぁ」
「なんで、圭太は彼女の息子になっちゃったの?」
「そんなつもりなかったんだけどなぁ。掃除も洗濯も、全部任せてたからかなぁ」

それだけではない気がする。
お母さんじゃない。
彼女の気持ちが、なんとなくわかる。

元々元気だけが取り柄で、一緒にいると毎日笑っていられるだろう。
でもそれは、ただ付き合っていれば、だ。
一緒に暮らしていれば、彼の幼さが彼女を苛立たせていたことは容易に想像がつく。

「脱いだ靴下をさ、カゴに入れなかっただけで、突然キレるんだもん。はぁ〜」
「それは、たぶん、溜め込んでたんだろうね」
「何を?」
「ん?いろいろ」
「わっかんねー」

彼は届いたばかりのジョッキをまたしても飲み干す。

「飲み過ぎだよ」
「飲ませてよー」

半泣きの圭太は、甘えたように友香にせびる。

他の男がこんなことをしたら気持ち悪いだけだろうな。
天性の甘えん坊。

気心知れた友香だって、数週間彼と生活をしたら、その元彼女と同じことを思っているだろう。

「俺、やっぱり友香がいい」

「ん?」

「次付き合う人は、友香がいい」

酔っているのだろうか。
また机に突っ伏して呟いたかと思うと、微かな寝息が聞こえる。
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