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Complex
第3章 変化
「ほら、行くよ」

完全に飲み過ぎの圭太の体を支えるようにしながら、店を出る。
長居し過ぎたのだろうか。
残っている客はまばらだった。

「ねー、友香ー」
「ん?」

「ホテル、行こっ」

友香の肩に手を回しながら、少し冗談めいた口調で言う。
圭太は、変わらない。
何年たっても。

「行かない」
「えー?なんでー?」

その問いには答えず、駅の改札に向かう。

「なんでなんで?俺と友香の仲でしょ?」

二人の仲。
どんな関係なんだろう。
圭太と付き合っていたのは10年以上も前のことだ。
三ヶ月しか持たなかった。

でも、それでもお互いに特定の人がいない時は、当たり前のように肌を重ねた。
元来、友香も圭太も、相方がいる時には二人で会うことはない。

だから、こうして二人で会ったときはそのまま朝まで過ごすのが当たり前になっていた。

恋人という枠を外して、一歩外から向き合えば圭太との関係は他の誰よりも楽ちんだった。

「今日、生理なの」

とっさに嘘をついた。

綾瀬なら、もっとスマートに誘ってくれたのに。
そう思うと、肩にのしかかる圭太の体がずっしりと重みを増したように感じる。


完全な酔っ払いの圭太を一人で電車に乗せるのは少し不安だったけれども。
いくら子供っぽいと言っても、立派な大人だ。

改札に強引に圭太を押し込むと、友香は反対側のホームに急いだ。

なんとか終点一本前の電車に乗り込む。

『次は、朝まで抱きあおうね』

ストレート過ぎるメールが届く。
この様子なら無事に家に帰れるだろう。
お互いあと10歳若ければ、なんてことはないのに。

綾瀬と出会っていなければ、圭太に嘘をつくことなんてなかった。
傷心の圭太を胸に抱き、慰めながらシーツにくるまっていただろう。
彼の幼さが元彼女には目に余ったとしても。

彼の小さな呟きを聞こえない振りをして流すようなこともしなかっただろう。

母性本能をくすぐられる。
圭太はそういう男だ。
それが彼の魅力。
決して男前ではないけれど、途切れることなく彼女ができるのは、やはり彼には人を惹きつける何かがある。

行き先の見つからない気持ちにため息をつきながら、友香は車窓に映る自らの顔を眺めた。
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