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純の恋人
第10章 国重一の後悔
純が崩れ落ちそうになったのを支えながら、俺は土居の様子を窺う。手錠を掛けられるというのは、案外精神に響くものだ。暴れるかと思ったが、呆然とするばかりで大人しいものだった。
「どうして逮捕状が出たのか分からない、って顔だな」
俺が声を掛ければ、土居は八つ当たりか俺を睨む。だが両脇を刑事に囲まれては、それが精一杯の反抗だったようだ。
「今日が何の日か、知らないか? 選挙の、投票日だ。もう、結果は確定した頃だろう。吉川の時代が終わり、松永 雅樹の政治が、今日から始まる」
土居の盾を繋いでいたものは、金だ。純の父親が娘を人身御供とし、事件を隠蔽したのは病院が献金するから。つまり吉川が権力を失えば、関係は解消される。警察への圧力も無効になるのだ。
「松永 雅樹は本人が美形、経歴もエリートでバンドのリーダーだった事を取り上げられて知名度も抜群だった。期日前投票での人気を見ただけでもはっきりする。吉川は負けるってな」
だが落選した吉川には、まだ光明がある。松永の側には、吉川の娘が二人いる。松永に擦り寄り機会を窺えば、また権力を手にする日も夢ではないだろう。