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言われてみれば、単純で。
第2章 君との出会いは、偶然で。
少し、静かな時間が流れた。特に話すこともなく、彼女は目の前の道路を通り過ぎていく車や通行人を眺めている。
それを俺が見ている。そんな状況。
ふと、彼女がこちらを見たので俺は視線を離し灰皿に灰を落とした。


「そういうことする人でしたっけ?」

「うーん。しなかったかもね」

「あの頃はあんなに可愛かったのに」

可愛かったとかいわれても嬉しくない。
彼女に視線を戻すと、俺の肩にも届かない身長の、小さな彼女の瞳が下から睨みつけてくる。

その顔を覗き込んだ瞬間、俺の顔が紫煙に包まれた。

自分のとは違う少し甘い香りがしたのは彼女の煙草の銘柄か、それとも彼女のものだからなのかは分からない。


「仕返しです」

「キョーちゃん、これは傷害罪だよ」

「此処は日本ですよ、丹羽先輩」


あの時のままの呼び方で俺を呼んだ。
呼ばれたかった名前。呼ばれたかった声で。

俺の知ってた声より、少し低めの落ち着いた感じ。女性も声変わりするんだな。
声変わりって言うより、成長から来る落ち着きの影響か。

当時も落ち着いているとは言え、子供の中では落ち着いているってだけ。
今は、本当に落ち着いてるって、こういう人のこというんだろうな、ってやつ。


これでさようならは勿体無い気がした。
勿体無いって言葉じゃ、なんだか安っぽいけど。


「そういえば、キョーちゃんこの後予定あんの?」

「えっと、今日はないです」

「じゃあ、飲みにいこっか」

「なんでですか?」

「再会記念」

彼女は意外にも素直に応じてくれた。
仕事上がりに料理もしたくなくてコンビニに寄ったものの好みのものがなかったらしい。

かと言ってひとりで外食に行く気分でもなく、食べないでおこうと思っていたとも言っていた。
なんて不健康な生活をしているんだ。

小洒落たフレンチにでも行こうかと提案とすると彼女は否定した。
普通、女ってこういうとこが好きなんじゃないのかと驚いたがまあ、そういうなら仕方ない。

そして彼女はこの近くに雰囲気のいい居酒屋がある言う。
よく行くんですよ、と付け加えて。
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