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言われてみれば、単純で。
第5章 この崩壊は、突然で。
今日は金曜日。
時刻は22時。いつもより早めに着いた最寄り駅は普段と違う雰囲気。
時間が違うのだから当たり前と言えば当たり前なのだろうが俺にとっては異質だった。

疲れきった顔と酔っぱらいしかいない俺が知ってるこの場所とは違う場所のようだ。

学校や予備校帰りなのだろうか制服を着た学生、今から飲みに行くのだろう陽気なサラリーマン、綺麗に着飾ったOLさん。
デートなのだろうか若い大学生くらいのカップル。
そしてその中に、何故か見慣れた顔がひとつ。

改札から出るとその顔の聞きなれた声が聞きなれない言葉で俺を呼んだ。



「イツキ」

キョーちゃん何それ。

目の前にキョーちゃん。
そして彼女と俺の間に割りと顔の整った見知らぬ男。

俺より少し背が低いようで彼は不満気に俺の顔を見上げている。

その後ろで物凄く申し訳なさそうなキョーちゃんの顔。

「あれ? キョー。どうした?」
何となく察しがついたので俺も普段とは違う呼び方をすると、その男は少し睨みつけるように俺を見た。

「藤崎さん、こいつ誰?」
この男。
初対面の相手に対して こいつ はないだろう。
俺は少しばかり頭に来たので彼にとって嫌な男を演じることにした。

「キョーの彼氏。で、君は?」

この男がいたはずのキョーちゃんの隣に陣取り、この礼儀知らずを見下ろした。


「藤崎さん付き合ってる人居たの本当だったんだ」

「うん。ごめんね」

「ずっと付き合ってる人いないって聞いてたのに」

謝っているキョーちゃんに引き下がらない彼は諦めが随分と悪そうだ。
此処に居ても埒が明かない。そう判断した。

「で? もういいだろ。キョー、行こっか」

俺は彼女の手を当たり前のように引っ張り寄せてその腰に手を寄せてその場から離れた。
キョーちゃんは俺の頬に手を触れて笑ってからあの男に「お気をつけて帰って下さいね」そう告げていた。

随分と優しく触れるものだから随分と優しく笑うものだから俺はかなり戸惑った。

今思えばこの時からキョーちゃんの様子は少しおかしかった。
帰り道はだいたい一緒。
今日は金曜だけどキョーちゃんも俺も今日の時間は読めないからと彼女の家に行く予定はなかった。

こんな日に限ってもやっぱりキョーちゃんは俺の前に現れた。
どんな偶然だよ。本当に。
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