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言われてみれば、単純で。
第5章 この崩壊は、突然で。
しばらく歩いてるとキョーちゃんが立ち止まった。

「丹羽先輩。もういいですから」

「彼氏ゴッコはおしまい?」

「駅からこれだけ離れれば充分です」

キョーちゃんの腰に当ててた手を引き剥がされて距離を置かれる。

「でも、ありがとうございました」

「俺、悪役慣れしてんの」

「何ですかそれ」

まあ軽く遊んだ相手切るときとか、そういうときに便利で身につけた技。
キョーちゃんには内緒の話だけれども。

「俺、演技派でしょ」

「軽そうにも見えましたけど」

「で、誰だったの?」

「会社の同期です。彼、来月から本社に行くことになって。
普段よりしつこく言い寄ってきたので」

「それただ告白されてただけじゃないの?」

「そうなんですかね。好きと言われても応え切れませんので何回もお断りしてたんですけど」

多分キョーちゃん優しいから遠回しに断ってそれが断りに受け取られなかっただけな気がする。
彼には申し訳ないことをしたとも思ったが俺を「こいつ」呼ばわりしてきたので自業自得。


ふと横を見下ろすとキョーちゃんは静かに俯き気味になって歩いている。

「でもさ、キョーちゃんがいきなりイツキなんて呼び止めるからビックリしたよ」

「ごめんなさい」

「いや。謝ることじゃないよ。ついでにもう一回だけ呼んでみて」

「嫌です」

「ねーキョーちゃん」

「嫌です」

「キョー。呼んでみて」

「お断りします」

キョーちゃんは頑なに拒否した。
俺だってそんな風に呼ばれるのは照れくさいから呼ばれたら呼ばれたで困るんだけど。
これもただ、キョーちゃんへの悪戯のひとつってことで。

平常心を保つためにはこれが一番だと思う。言葉だけでもいいから、と戯けてみせた。
いつも静かだけど、もっと静かになっているキョーちゃんに戸惑ってる。

「キョーちゃんの意地悪」

「どっちがですか。
まああれです。丹羽先輩、飲みましょう」

「なんで?」

「呑みたい気分なんです」

「どっちかの家でいい?」

「いいですよ。うち来ます?」

「いつもキョーちゃんの家の日だから今日はうち来なよ」

「じゃあお言葉に甘えて」

キョーちゃんは呑みたい気分にさせたのは会社の同期の彼だろう。
いくらか彼を傷付けただろうことを心配しているのだろうか。
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