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言われてみれば、単純で。
第5章 この崩壊は、突然で。
目が覚めると昼を過ぎた頃だった。
隣に居たはずのキョーちゃんの姿が見えなかった。

リビングにいるのかとそちらに向かったもののやっぱり彼女は居ない。
昨日の記憶では荒れたままだったキッチンとリビングが綺麗に片付けられていた。


ソファの前にあるローテーブルの上に昨日はなかった紙切れが置いてある。



丹羽先輩
昨日はお恥ずかしいところ見せて申し訳御座いません。
自分勝手だとは思いますが
暫くは会いたくないので
いつもの予定はなしにして下さい。
連絡もしないで下さい。

鍵は玄関にあったものをお借りしてドアポストに入れさせて頂きます。

藤崎キョー



相変わらず、字は下手なんだね。

キョーちゃんの置き書き。
よく見ると彼女が昨夜くしゃくしゃにした煙草の箱。
それを解体させた厚紙だった。

彼女の好む煙草独特の、甘い香りがした。

綺麗に片付けられたこの部屋に昨日の面影は全くなくて、開けられた窓のせいかアルコールや煙草の匂いもしなかった。

ただ肌が覚えているだけの記憶だけでは思い出しきれない出来事に俺は頭を抱えた。


自分勝手すぎるよ。
さっきまで今までより、ずっと近くに居たと思えてたのに。


がらんとしたリビングで煙草を咥えた。
ローテーブルの隅に置かれたキョーちゃんに貰ったジッポを拾い上げると、それはやけに冷たく冷えていた。
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