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言われてみれば、単純で。
第5章 この崩壊は、突然で。
「なんかお腹すきました」

キョーちゃんは突然キスを止めてそんなムードの欠片もないことを言った。

何だったんだ。

キョーちゃんはお皿に残っていたパスタを器用にフォークに巻き付けて食べていた。



最後の一口分。
それがフォークから溢れて彼女の開いたシャツの中の胸元に落ちていった。
彼女はそれをじっと眺めている。

「それ、服。汚れるよ」

「とって。これ、残さず食べてくれるんですよね」

どういう意味?

ほんと意味が分からない。
とってって言われても多分服の奥に入ってしまっている。

「丹羽先輩。ボタンのはずし方も知らないんですか?」

今まで見たことない挑戦的な瞳でキョーちゃんが俺を見ていた。


気が付けばソファの上で彼女を押し倒してた。
彼女の真っ直ぐな瞳に俺だけが写っている。


「早く食べて下さいよ」

彼女が自ら自身のシャツのボタンを外し始めたのでその手を引き剥がして俺が外した。
落としたパスタは胸の丁度間くらいにあった。


俺は迷うことなく其処に口付ける。

服が汚れる。

こんなのきっと言い訳でしかない。


俺はこの日初めてだったと思う。
「好き」という言葉を口にすることなく、肌を重ねた。


「子犬だと思っていたのに、知らない間に大型犬になってましたね」

彼女のそんな言葉が印象的だった。

キョーちゃんから時々感じたあの甘ったるい香りの正体が彼女の体臭であることをこの時知った。

自分以外。他人を入れたことのなかった寝室で彼女と抱き合いながら寝た。

一人で寝ても然程広さを感じなかったクイーンサイズのベッドでも彼女と寝ると妙に広く感じた。
そのくらい近くで、重なり合ってしまうかもしれないくらい近くにいる彼女を抱き締めながら眠りについた。
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