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ただ一つの一対
第2章 少女は夢を見る
 
 力強く竹刀を握る菖蒲は、凛としている。菊は菖蒲の頭から手を離すと、まじまじと菖蒲を見つめた。

「ええ、菖蒲が一番美しく輝くのは、剣を手に取ったその時です。その真っ直ぐな瞳を見れば、お兄様も理解してくれるでしょう」

 すると菖蒲の頬はたちまち桜色に染まり、真っ直ぐだった瞳は揺れる。

「う、美しいとか、叔父さんは大げさだよ! そういう事簡単に言うから、無駄にモテるんだからね!」

「簡単には言いませんよ? 美しいモノは希少だからこそ、価値があるんです」

「だから、もう……叔父さんは、分かってるようで分かってない!」

 声を荒げる菖蒲の意図が分からず、菊は首を傾げた。すると道場主が大笑いして菊の肩を叩き、頬を指でつついた。

「憎いねぇ、色男は。姪っ子に手ぇ出しちゃ駄目だよ」

「言われなくとも、手を出すつもりなんてありませんが?」

 菊は、なぜそんな事を言われるのか分からないと言いたげに、首を傾げる。そして同時にポロリとこぼした言葉で、今までうろたえていた菖蒲が肩を落とした。

「……分かってるもん、そんなの」
 
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