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痴漢脳小説 ~秋津高校サッカー部~
第8章 準決勝 武蔵西武戦
 俺は今も、その瞬間を覚えている。

 颯爽とゴールに向かって走る背番号10。
 まるでそこに吸い付けられるように転がってくるボール。

 ヒデは右足を振り上げた。 
 

 なぁ、ヒデ。お前は知らないだろう?

 俺達がここまで必死になってやってきたのは、武蔵西武に勝ちたい、全国大会に出たい、それだけじゃないってことを。

 全国に行ければ、お前はきっと日本中から注目される。
 そしたらもう一度、日本代表に選ばれる。

 それがお前への恩返しになる。

 それに今、サッカーが楽しいんだ。楽しいんだよ。
 今までにないくらい。今まででいちばん。

 お前が思い出させてくれたサッカーの楽しさ。お前が教えてくれた勝つ方法。
 お前が立て直してくれたサッカー部。

 だから、お前と一試合でも多く戦いたいんだ。
 まだこの先もいろんな大会があるよな。もしかしたら俺達、どこかで優勝しちゃうかもしれないよな。

 それでも、高校時代に経験できる試合なんて限られてるんだ。

 お前ともっとサッカーがしたい。一試合でも多く。
 だからひとつでも多く勝ちたいんだ。

 きっと俺はプロにはなれない。日本代表なんて考えられない。他の部員もそうだろう。

 でも、お前は違う。お前は日本サッカーを背負って立つ男になる。
 お前と一緒にサッカーが出来る時間は、本当に今しかないんだ。

 だから一試合でも多く。

 勝って、勝ち続けて全国へ。

 そしてお前は日の丸のユニフォームを。

 畜生、痴漢野郎。お前、すごいよな。
 お前になら俺の、俺達全員の夢を託せる。


 ヒデの右足が翻り、力強くボールを押し出す。

 ボールはゴールネットに突き刺さり、ゴールネットが大きく揺れた。

 その瞬間のヒデの姿を、俺は一生忘れない。

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