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愛しては、ならない
第44章 こわれる ②




悟志が意識を取り戻した、という報せを聞いた時に、俺の中では複雑な感情が生まれていた。

彼が居ない事によって、あの家の中のバランスが崩れて、俺と菊野の関係が進んだと言ってもいい。

悟志がもしこのまま目を醒まさなかったら、あわよくば彼女を名実共に自分のものに出来るかも知れない、等と考えていたのだ。

この家に養子として引き取られた俺が彼女と結婚する事は不可能だが、学校を卒業した後もここに留まって、彼女を支える事が出来る、と浅はかな夢想を抱いていた。

俺は、悟志が目覚めなければいいと思っていたのだ。

彼が目覚めたら、俺は菊野に完全に手出し出来なくなる。

――いや、例え悟志がいたにしても、彼女さえ望んでくれれば俺は――

等と、愚かな浅ましい考えが頭をもたげたりした。

今となっては馬鹿馬鹿しいとしか言葉が見つからない。

それ以前に俺はもう、菊野に捨てられそうになっているではないか。



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