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第54章 四年後

「でもだからって、なんで俺に?」



突然押し掛けて来てはピアノの事の相談をする祐樹に、剛は毎回呆れ顔で言った。

だが剛は、音楽に関しての祐樹の悩みや疑問等を彼なりの考えで解釈し、誠実に答えてやっていた。

剛は本気で音楽のプロになろうと思っていないし、好きに弾いているだけで専門の知識は祐樹の方が詳しいが、音楽の勘は確かだった。

間正面からズバリと問題の根源を言い当てる剛に、祐樹は時に「お前、そこまで言わなくても」と引きながらも、彼と話した後は不思議とスッキリしていた。

祐樹が剛の元へ行くのは、密かに彼の暮らしぶりや近況を探り、菊野に教えてやる目的も含まれるが、剛も素知らぬ振りをしながらそんな祐樹の思惑を見透かしているようだった。



「今日はさ、俺、伝書鳩なわけ」


祐樹は指に挟んでいた葉書を剛に差し出した。

怪訝だった彼の表情は、葉書の差出人と文面を読む内に、くしゃり、と歪んだ。

だがそれもまた一瞬だった。

剛は、直ぐにいつもの一見優美に見えて冷たい瞳に戻り、平坦な声で呟いた。



「面倒だな……」