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愛しては、ならない
第65章 BEDTIME STORIES
「わ……笑ったわねーー!ああもうっ……だから嫌だったのよーー!もうっ!」

 菊野は、顔を手でごしごし擦ってしきりに首を振った。
 
「いや、僕は楽しんでますよ?読んでくれている時の菊野さんの表情とか」
「ーー!な……な……」

 菊野は唖然とする。
 剛はベッドに仰向けになり、下からこちらをじっと見つめていた。
 大好きな、彼の切れ長の目もと。だんだんと菊野の胸の音が大きくなる。
 
「今日は俺の言うことを聞いてもらう約束でしょう?」

 いつの間にか僕が“俺”になっている。

「う……ま……まあ……そうね……」

 トランプ対決に負けたほうが、言うことをきくーー確かにそんな約束をした。そして、菊野は負けてしまった。
 14歳下の恋人の言うがままになってしまいそうだ。少しの悔しさと、恥ずかしさと、飛び上がってしまいそうに浮き立つ気持ちがごちゃまぜになる。
 剛は、菊野の髪を一筋つかみ、唇を押しあてた。

「まあ、絵本はまたこの次にしましょう」
「この次って……」

 菊野は悲壮な声を出した。
 幼い頃は平気で読んでいたのに、大人になった今はこの絵本を読むとーーいや、本の表紙を見るだけで条件反射のように涙が溢れてしまう。
 物語に感情移入するたびに身も心も激しく消耗するのだ。
 しかも感極まって泣いている姿を面白がられているなんてーーと腹が立ってくる。
 菊野は、涙の残った目で、精一杯の迫力を込めて剛を睨んだ。

 
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