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愛しては、ならない
第29章 虚しい演技を止める時


「……」


無言で、遠ざかっていく彼を見ながら校門をくぐったとき、後ろから肩を叩かれ振り返ると、清崎が笑ってそこにいた。


「おはよう、剛君」


香る甘い髪に一瞬くらり、と酔いそうになるが、俺はそんな自分を律しようと唇を結ぶ。

彼女にこれ以上、深入りはいけない。

俺は、菊野と愛し合ってしまったのだ。

この心も身体も、菊野の物なのだ。

清崎は魅力的な女の子だが、彼女を傷付ける訳にはいかない。

元通り、友達に戻るのが彼女の為だ。


「おはよう」


俺は優しい笑顔を返す――多分、彼女にはそう見えている筈だ。彼女の頬がほんのりと染まり唇までが桜のように色づく。

その唇を見ていると、清崎とのキスが思い起こされ、疚しい欲がむくり、と頭をもたげた。


(何を考えてる……俺は……)


「剛君、部活とか何か入るの?」


「そうだな……まだ何も考えてないけど……」


隣に並び無邪気に話し掛けてくる清崎の、ブラウスの衿元から覗く白い肌から目を逸らし他愛ない会話をするが、他の生徒たちの

視線がチラチラと刺さるのは気のせいだろうか。
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