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愛しては、ならない
第30章 彼しか見えない


「ひっ……く」


堪えようとしても、次から次へと込み上げる嗚咽が止まらず、苦しさに身体を折り呻くしかない。

私は何もわかっていなかった。

悟志がどれ程私を大切にしてくれていたのかも、真歩が思いを自分の中に閉じ込めて、ずっと友達で居てくれた事も……


――終わらせなければならない。

あるべき形に戻らなければ……


私は悟志の妻で、祐樹と剛の母親なのだ。

昨夜の事は忘れなくては。



剛の涼やかな瞳、しなやかな指、耳を擽る低い声を思うだけで、身体中が焼ける様に恋情で熱くなる。



――真歩の言う運命、という物があるとしたら、私の運命の人は剛なの……?

でも、そうだとしても、駄目だわ。

駄目なものは駄目。

剛さんを突き放さなくちゃ……



涙と嗚咽を飲み込みながら、脳裏に浮かぶ愛しい彼の眼差しを消そうと強く瞼を閉じた。
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