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愛しては、ならない
第38章 愛憎③


――この家に来なければ良かったんだよ!



その言葉に、全身の血の気が引いた。

喉の奥から得体の知れない闇がズルズルと音を立てて出ていこうとする錯覚に襲われて、気持ち悪さに咳き込み、床に崩れた。

自分が今何をしているのか、何処に居るのかさえ覚束無い。

ここにいるはずなのに――本当は俺はここには居ないのでは無いだろうか?

遠い、過去の白黒の記憶が映像となって瞼の裏に映し出される。

薄暗く、狭い空間に身を縮めて踞る自分。

埃っぽく、暖かさの欠片もない空気の中で、何を幼い自分は考えていたのだろう。

襖の僅か隙間から見えるのは、男と女が奇妙な体勢で絡み合い、身体をぶつけ合う光景。聞こえるのは唸り声と甲高い悲鳴。

幼い俺の口から叫びが漏れてしまうと、襖が乱暴に開けられて引きずり出され、物凄い力で全身を叩かれた。

意識を失う寸前に女が――多分、俺を産んだ女が――

吐き捨てるように口にした言葉――



――あんたなんか、要らない!!





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