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私は犬
第28章 アメリアの夢
大規模な商業ベースに乗せちゃいけない味ってあると思うの。小さなお店でしか維持出来ない味。

「旨いだろ?」

黙々と食べていたから気付かなかったけど、有史さんも同じ物を食べていた。オムライスの中身だけの奴も一緒に。

「すっごく美味しいです。お肉がトロトロ。」

そう告げると、有史さんは満足そうに笑った。これ、お箸でも食べられると思う。お肉が沢山入ってるから、サラダ食べきれない……。と悩んでいたら、サラダが有史さんのお腹の中へ綺麗に片付いた。

子供の頃におば様とよく行った、プロヴァンスの田舎のお店のお料理みたいな。そんな懐かしい味がしたのは気のせいかな?

「ごちそうさまでした。美味しかったです。」

セ テ デリシュー!と叫びたい。食後のお茶をゆっくり頂きたい所だけれど、入店待ちの方もいるようなので、さっさと食べて切り上げた。唯一、こういう所だけは残念な気がする。

お店を出て、自分の分を支払おうと思ったら

「週末に身体で払え。」

とニヤニヤされた。さっきからニヤニヤして…。これ、どうにかならないの?

「さっきの店、先代の爺さんが引退して、1度閉店したんだ。だけど、孫娘が引き継いだ。大切な店を孫に継いで貰えて、あの爺さん、あの世で喜んでんだろうな…。」

有史さん、このお店にも、昔、家族と来たのかもしれない…。

泣きそうな梅雨空の向こうに、青くて細長いタワーが見える。こういう時の青色って、ちょっと寂しいね…。
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