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私は犬
第30章 主導権*
ダイニングの硝子のテーブルには、クロワッサンにカフェオレ。小さなボウルには茹でた野菜、なんかがお行儀よく並んでいる。このゴツゴツした果物は…。

「ねぇ、これなぁに?」

「ライチだ。楊貴妃が好んで食べた中国の果物。隣のはオレンジのやつは枇杷。」

楊貴妃って、傾国の美女と謳われている歴史的人物よね。台湾や中国でオペラにもなってる…。

「貸してみろ。剥いてやる。」

有史さんは、そう言うと器用に硬い皮を剥いて、私の口に放り込んでくれた。優しい甘さが広がる。

「うまいか?」

うん、美味しい。口にライチを入れたまま、コクリと2回頷いておいた。きっと、これで伝わったはず。

ベッドの中では怖くて乱暴なのに。今は優しい。ずっと優しいままでいてくれたら良いのに。どうして変わってしまうのだろう…。

優しい有史さんが好きなのに…。と考えてギョッとした。私、今、頭の中で、なんて言った?

《好き》って言った。日本語で《好き》って。

有史さんの顔を、チラリと盗み見る…。なのに…

「どうした?」

と、直ぐに気付かれて、盗み見た意味が全く無い…。
「……なんでもない。」

剥いてもらったライチを口に入れながら考える。

この《好き》は、《Love》ではなくて《Like》だと。日本語の形容詞ってば、ややこしくって紛らわしい…。
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