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私は犬
第30章 主導権*
これ、答える必要あるのかな?何て答えればいいの?はぁ〜っ。

「いいえ。特に…。」

よし。もう話しかけないで。推定よしださん…。

「どう、仕事に慣れた?」

はぁ〜っ…駄目だこりゃ…。心の中でため息を吐いていたら、エレベーターが来た。こういう時は…。

「上に行きますけど、乗られますか?」

たぶん、これで大丈夫。

「いや。僕は下に行くから。」

「そうでしたか。では失礼致します。」

軽く一礼してエレベーターに逃げ込んだ。同乗者が居なくて良かった…。こういう小さなやり取りが、とても苦手。何で放っておいてくれないのかな…。

法務部のあるフロアに着くと、扉の付近でまた男性に話しかけられた。もう…。誰か助けて…。

「えーと。金井に用かな?」

「はい。書類をお願いに参りました。金井さん、ご不在ですか?」

「中に居ると思うよ。入って。」

知らない方は、親切に扉を開けて下さった。ここは一礼してお礼を云うべき?

「ありがとうございます。」

全てのやり取りに、小さく緊張する。金井さんに書類を渡し終えて、自分の席に戻れた時には、口から魂が半分出て行ってしまったかのような、疲労感に襲われた。
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