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私は犬
第33章 さよなら
夕飯を終えてお皿を洗う横で、お婆ちゃんが、明日の朝食用のタルトの為の下拵えを始めた。大きなお鍋で大量の胡桃のキャラメリーゼをかき混ぜていて、部屋中に、甘い幸せな匂いが立ち込めるる。

キャラメルの香りのするリビングで、ピアノを弾いていると、お婆ちゃんが顔を出した。

『アタシはそろそろ寝るよ。頭の黒い鼠に会ったら、宜しく伝えておくれ。お休みMacco』

あ…胡桃キャラメルの盗み食い、全部バレてる?

・・・・・・・・・・・・・・・

「おい、真子、起きろ…。さっきからずっと携帯鳴ってる…。」

有史さんに揺すられて、旅をしていた意識が呼び戻された。スマホを渡されて、ディスプレイ画面を見ると、41で始まる長い番号が表示されている。

通話ボタンを押すと、春木さんの声が聞こえてきた。

「早朝から申し訳御座いません。…エンデ夫人が、先程お亡くなりになられました……。」

ああ…やっぱり…。春木さんに詳細を聞いて通話を終える。大丈夫、思っていたよりもショックは小さい。。だから私は大丈夫。

87歳だったし。このさよならは、誰にもどうにも出来ない仕方のない事。今さら泣いて足掻いても、もうどうにもならない。そんな事くらい分かってる。

エンデのお婆ちゃん……。
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