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わがまま
第1章  
「それは、まだ……出来ないよ……」

あなたはティッシュペーパーで自分を拭き始めた。

拭き終わるとそれは大きな球になり、あなたはそれをゴミ箱に放り投げた。

「まだ? じゃあ、いつ?」

「近いうち必ず、離婚するって、言ってるだろ? 俺の言うことを信じられないのか?」

「せめて、いつ、か教えて……」

「近いうちだよ。今、子供のこともいろいろあって、忙しいんだ……」

あなたはワイシャツを羽織った。

「もっと大人だと思っていたよ。俺の事情も考えずに、樹里がそんなわがままを言うとは思わなかった……。今日はもう帰るよ」

一番聞いて欲しかった私のわがままは、あなたに聞いてもらえなかった。

あなたは、靴下を吐き終わると、ドアに向かった。

ドアが開き、閉まる。

床の上の、あなたが忘れていったネクタイを見つめた。

わたしのわがまま……。

じゃあ、あなたのわがままは?

今気づいた。

私は、あなたのわがままを、はじめからずっと聞いていたことに……。

私は立ち上がると、ソファから雑誌を拾いあげ、ごみ箱に捨てた。

ゴミ箱からムッとするあなたの匂いが舞い上がった。


~おわり~
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