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陽炎 ー第二夜ー
第2章 勝負師


るいさんは、俺の腕の中で眠っている。



俺はなんだか、いつもより満たされた気分だった。


上手く言えないけど。

どの女と寝た時より、優しい気持ちになれた。

「鷺…」

何時の間に目覚めたのか、るいさんが俺の名を呼ぶ。

「…ずっと、ここに居て…」

「…?」

「あんたにはきっと、他の女がいっぱい居るンだろう…あたしにそんなこと言う資格なんかないってコトぐらい、理解ってる…でも…あたしにはあんたしかいない…!だから…お願い…もう、捨てられたくないの…何でもするから、お願いだから、ここに居て…」

女に涙声で、そんなこと言われて。
それを袖にできるとしたら、それはどんなに冷たい男だろう。

俺はるいさんをぎゅっと抱き締めた。

少なくとも、俺はそこまで冷たい男じゃない。

めくらの俺なんかに、こんな必死で縋ってくれる女なんか、今まで居なかった。

今までの女は、俺の面倒を見てはくれたけど、頼ってはくれなかった。
俺の方が女を頼ってたからだ。

めくらを理由に俺は逃げてた。

てめぇの足で立とうともせず、女にぶら下がって生きることばっかり考えてた。

こんな情けない男に、縋ってくれる女が居る。
ここで立たなきゃ、俺は男じゃねぇ。
そう思った。

頭の中に市サンの声が響く。

「目が見えねぇからって卑屈になんな。お前は耳がいい。勘もいいし鼻だっていい。目あきだって世の理が見えちゃいねぇ、節穴みてぇな目玉の奴はいっぱい居ンだ。そんな奴らに、お前が劣る訳ねぇだろう?」

そうだな、市サン。

あんたに貰ったこの言葉。

今の今まで忘れてたよ。




るいさんを抱き締める腕に、ぐっと力がこもる。

「大丈夫だよ、るいさん。俺はずっとここに居る。
あんたから離れたりしない」
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