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陽炎 ー第二夜ー
第2章 勝負師
高石養生所ー玄関の戸や壁のあたりは、あまり手入れされてないみたいで、乾いてささくれた木の感触だった。

「誰かいる?」

玄関先で声を掛けると、女の声がした。

「はい。」

「ここに兵衛って男が居るだろう?そいつのツレなんだけど。今居る?鷺って言ってくれりゃ判るよ。」

「まぁ、兵衛殿の…少々お待ちを…」

女は洗足桶と手拭いを持ってきてくれた。俺は腰掛け、足を洗うと、家に上がり、女についていく。

声の感じからして、年の頃は四十手前、てとこか。

落ち着いた、でも婀娜っぽい声の女で。見た目もさぞかし色っぽいんだろうな、と思った。兵衛なんかにゃ勿体無ぇ。

部屋に通されると、兵衛が笑って迎えてくれた。

「よう来たの。まぁ座れ」

座布団に座り、案内してくれた女が部屋を出て行く。

障子の音を確認してから口を開いた。

「いい女じゃないか。あんたにゃ勿体無い女房だな。」

「女房なんぞじゃない。蜘蛛を飼っておると言うたろうが。アレがそうだ。」

「蜘蛛?」

「男を喰らう女郎蜘蛛よ。」

「え、何?あんた喰われてんの?喰われる身体あったんだ。枯れてんのに。」

ぷっと吹き出す。

「やかましいわ!何か用があるから来たんだろうが!とっとと用件を言え。」

俺はクスクス笑っていたが、ふぅ、と息を一つ吐き。

「ん。今日は折り入って頼みがあるんだ。…兵衛。金貸して?」

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