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恋するアイドル❤︎〜内緒の発情期〜
第10章 裏切り
「折角オレが火付け役を買ってやったのに、もう台無しにしてんの?」

「だってしょうがないもん……あんな事件が起こるなんて私だって考えてなかったもん……」

振り出しに戻る、というまさに人生ゲームの大痛手を天から喰らった私は、もう毎日が無気力……生きている心地さえ感じられなくなった気分に苛まされていた。
黒咲くんが彼を焚き付けて本心を引き出してくれたあの日から……そう、八反田さんが私に自分の気持ちを吐露してくれたあの時から……八反田さんは信じられないくらい優しくなったのを、私は未だ忘れられないでいた。

「風間、チョコ食べるか?取引先から頂いたんだ」

有名パティスリーの化粧箱入り。
それを私にだけくれたり。

「お前は体が弱いんだから無理するな」

ビタミン剤入りのドリンク。
それを差し入れしてくれたり。
どれも勿体なくて今も後生大事にとっておいてあるとは本人にも告げていない。
まだまだ他にもある。

「今日は暑いからちょっとここで涼んでいなさい」

そう言って出勤前の余った時間、事務室の傍らに私という小さな存在を置いておいてくれたりするようになったのも、もう随分と前のことに感じられる。
更にはおはようの挨拶や用事を頼まれる序でによく触れられるようになってたっけ。
例えば事務室でぼぉっと彼の姿を眺めて休んでいるとする。

「風間、ちょっとそこのファイル取ってくれ」

といった具合に、台詞の前後、私の背に触れてくる。
すっと、自然に、違和感なく。

「はい」

快くお目当てを探し当て手渡せば。

「ありがとう」

私の眼の奥を覗くように良い角度を保って(という風に私が見えるだけかもしれない)顔を作り指先で私の後れ毛を掬ってくれる。
それからまたナチュラルに仕事に戻っていく。
ファイルが本当に必要だったかは判らないといったていだ。
これが八反田さん以外でならセクハラってやつなのだけれど。
私にはそのどれもが嬉しくて。
八反田さん本人もはにかむ私を見てクスリと微笑むから、私の中の目覚め始めた女がこの男性が悦んでいることを理解して、薄く紅色を落とした空気が垂れ込むのを秘かに感じ合っていた。
他人が見たらおよそ、引く、だろう。
しかし、どれも仕事に支障のない触れ合いばかりだったから問題はないはずなのだ。
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