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素直になれなくて
第3章 田坂くん
「おはようございます。昨日はご迷惑をお掛けしました!」
悠里はフロアの入口で、メンバーに声を掛けた。
「悠里!元気になって良かった!」
恵美が、走り寄ってくる。そして耳元で
「浅井と進展あった?」
悠里は真っ赤になって恵美を見る。
「なっ、ないよ!」
「全力で否定するなよ。落ち込む。」
浅井が後ろで呟く。
「え、あ、ごめん。」
「悠里が覚えてないだけかもしれないだろう?」
「浅井はしないでしょ?」
どれだけ信用されてるんだ……逆にプレッシャーだ。
田坂は、遠くからその光景を見つめていた。
何となく、浅井との距離が近付いた様で、妬けた。

昼休み。田坂は悠里に声を掛けた。
「悠里先輩…ちょっと…」
悠里の腕を掴んで歩き出す。
「ちょっ…田坂くん?」
会議室に連れ込まれ、壁に押し付けられる。
「悠里先輩…この前はごめん……」
謝る体制じゃないよね…この状況。
「田坂くん、あの…」
「代わりにならない?」
「え?」
「俺は、忘れられない人の代わりにはなりませんか?」
「何言ってるの?」
「代わりでも、何でも良いんです。側にいさせて下さい。」
そう言って、田坂は俯いた。
悠里は、深いため息を吐いた。
「じゃ、本音を言う。」
田坂は、悠里を見つめた。
「田坂くんは似てるの。元カレに。」
「え?」
「帰って来たのかと思ったの。でも彼とは違う。」
悠里は、目に涙を溜めて田坂を見つめた。
「今の私は田坂くんを見てない。田坂くんを通して、彼を見てる。彼が生きていたら、こんな感じなのかなって…」
「……残酷だよね…」
「それでいい。」
「えっ…」
『それでいいから……付き合って……」
そう言うと、悠里を抱きしめた。
「ソイツの変わりで良いから。オレの彼女になって下さい。」
「本当に、もう許して。」
悠里は、田坂の腕から逃れようともがいた。

「……ずっと側にいてよ……悠里…」

悠里は目を見開いた。
その……言葉……
悠里はカクカクと震えだした。顔色が真っ青になる。悠里の目はどこか遠くを見ていて、田坂を見ていなかった。
「…滝島………ヒロ……」
悠里は、そのまま崩れ落ちる様に倒れた。
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