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夜は、毎晩やってくる。
第8章 届けて欲しいの 前編
チャイムが鳴って扉を開けたら王子様が立っていた。
マントをなびかせ、乗馬用のキュロットを履き、頭には王冠を輝かせたピカピカの王子様。
「……は?」
思わず呆気にとられるあたし。
王子様がニコリと微笑む。
白い歯がチラリと見えただけの、上品な笑顔。
「お届けに上がりました、お姫様」
え? いつからあたし、お姫様になったの?
生まれ育った漁師町の、実家は網元だったから比較的裕福なほうではあったけれど、お姫様なんて呼んでくれるのは祖父母とか父ぐらいだ。それも、もうずいぶんと幼い頃の話。
高校卒業後、大学に受かって上京して、Uターンもせずに―昨年、そのままこちらで就職。毎日お茶を汲んでるしがないOLなのだよ。
職場にいるのはハゲ散らかした上司で、間違ってもあたしのことをお姫様なんて呼ばない。てか、呼んだらあたしのほうが殴る。