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飼育✻販売のお仕事
第9章 商品調教〜伊澄〜

 ごく自然に口舌を交わしている一家が、昼近くのコンビニエンスストアにいた。

 学校の創立記念で休みらしい、中学生と見られる姉弟はカジュアルな私服に身を包み、明るげな両親に連れられて、デザート売り場を吟味していた。


 滑稽だ。


 血縁というえにしに引き合わせられた団体が、互いにどこまで理解しているかも分からないで、子供は親の、親は子供の声に摯実に耳を傾けている。

 当たり前にしているのは当人らだけだ。



「戻りました」

 獣達の住処に帰り着くと、両腕に食い込んでいたレジ袋から解放された。

 伊澄は里子に領収書を渡す。傍らで、りつきの目が気まずそうに泳いでいた。



「結野さんサンキュ。んじゃ、雑費の計算は里子頼むな。私らはこれ撒いてくるわ」

「ええ、お願い」

「本当にごめんなさいでしたぁ」

 志穂がレジ袋を担いだ。伊澄は残った二袋を持ち上げて、彼女に付いて地下へ降りた。





 地下一階のフロアに出ると、六十代くらいと見られる婦人が檻を見回していた。

 伊澄はワゴンを隅に置いて、いらっしゃいませ、と一声かける。

 目尻の下がった双眸が、穏やな人となりを湛えた。


「申し訳ありません。トラブルが発生しまして、給餌が終わっておらず……」

「良いのよ。ここは冷やかしだから、店員さんは気にしないでやっておくれなさい」

「有難うございます」

 伊澄は器に盛ったスープとパンをトレイに移し、一つ一つのケージにそれらを差し入れてゆく。

 水と茶は洗面器に常備してある。二度目の餌を与えられた人間達は、食前の常套句を呟いて軽く手を合わせると、器に貪りつき出した。


 ぬちゃっ、かぷ……ずっ……ずず…………


 四つん這いになってパンを噛みちぎる者、座り込んで顔だけを皿にうずめる者、床にこぼれたスープをじかに舌で拭う者──…身体を覆う機能をほぼなさない端切れをつけた人間達は、思い思いに食事を進める。
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