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はじめの一歩
第1章 Butterfly
「ま、誠、貴方、本気でそんなこと…」

母の顔からは血の気が引き、口をパクパクとさせる。

「僕は本気だよ。僕の生涯の伴侶は彼女以外考えていない。それが認められないなら、家を出るしかないでしょう?」

父が、ふぅ、とため息を吐いてお茶を啜った。

「諦めなさい、艶子。私達の敗けだよ。一之瀬由美子さん、と言ったね。君は、一之瀬物産の、一之瀬明社長の娘さんかい?」

由美子は父の顔を振り仰ぎ、

「…父を、ご存知でしたか…」

父がふ、と笑う。

「…彼に、君ほどの強さがあれば…あんな事にはならなかったのじゃないか、と思ってね…」

由美子も微笑み、

「私も、そう思います。」

と答えた。

「お母さん似、と言うわけでも無さそうだな」

葬儀の時の夫人の様子を思い出してか、父がポツリと呟く。

「私は、幼い頃から祖父に似ていると言われておりました。女の子の癖に勝気で可愛くないと。」

そう言う由美子に父はまた笑って、

「…女性が家庭で守られる時代はいずれ終わる。これからは、その強さが必要とされるだろう。誠は、いい女性を見つけたな。」

「僕も、そう思います。」

母だけは釈然としない様子ではあったが、父が由美子を認めた以上、母はそれに従わざるを得ない。

それもまた、母の不変の価値観だった。
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