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他人の妻、親友の夫
第6章 超える一線
「先に上がります……」

海晴は立ち上がり、岩を組んだような野趣のある湯槽から立ち去る。
社交辞令でも『志歩も抱いてやってください』とは言えなかった。そんな流れで言えるほど、妻の貞操は安くない。

異常な世界で、自分一人だけが正常な気分になった。そして全てが異常な世界では、正常な人間こそが異常なものとなる孤独を感じていた。


先に一の湯を出た海晴は大理石で作られたベンチに座り、自販機で買ったビールのプルタブを上げる。
旅館は温泉街のメインストリートではなく、脇に入った駅前の通りにあった。
旅館の人の混乱を招かないように、海晴は理依と、妻の志歩は秋彦と同部屋となっている。
外湯回りに出掛ける前、旅館にチェックインしたときも、もちろんその組み合わせで部屋に入った。

浴衣に着替える時、理依は海晴に背を向けてはいたが、戸惑いなく服を脱いでいた。

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