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他人の妻、親友の夫
第8章 視欲の目醒め
千田秋彦が『視る』悦びに目覚めたのはまだ幼い頃だ。
その経緯については妻である理依にも秘密にしている。

両親は彼が小学一年生の頃離婚した。
父は大学の研究者であり、母は平凡な主婦だった。

秋彦には父との想い出がほとんどない。
父というものは朝早く出ていき、夜遅く帰ってくるもの。そしてほとんど家にはいない。
幼い彼はそれが普通だと信じて疑わなかった。
普通の家では休みの日は父も遊んでくれるものというのを知るのはそれからしばらくのことで、両親が離婚したのは父親が子供をどうしても可愛いと思えなかったのが理由と知るのはもっと先のこととなる。

離婚した両親のうち、秋彦を育てていくのはもちろん母だった。

「秋彦は賢いね」

母にそう言って貰うのが嬉しくて、彼は必死に勉強をしていった。
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