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口琴
第14章 診察
中條家の日本庭園の木々も少しずつ紅葉し、一段と趣を深める初秋。
松岡は、暫く振りに中條家へ向かった。
「こ、これは松岡先生。お久しぶりでございます。今日はどのようなご用件で?…」
突然の訪問に、北川が少し慌てた様子で訊ねた。
「あぁ、前々から中條に頼まれていた物が、漸く完成したんでね。少しでも早く届けようと思って。中條は居るのかい?」
「あ、はい。いえ、あ…あのぅ…その…只今お坊っちゃまは…その…」
「ん?どうした?居るのか?居ないのか?」
「あ、はい。確か蕾お嬢様と離れにいらっしゃるかと…」
「あ、そう。では行ってみるよ」
「あ、先生。今はちょっと…その…お取り込み中かと…」
「…なるほど…そう言うことか…。フフッ。ちょうどいい。コイツが役に立つよ」
手にしていた、小さな黒い鞄を少し持ち上げて北川に見せると、戸惑う北川を横目に離れへと向かった。
格子戸の前に立ち、松岡は僅かな緊張を覚えていた。中條の少女趣味については、十分理解し、その後始末を何度も請け負ってきた松岡だが、実際に少女が中條に貪られている光景を見たことがなく、少女趣味ではない自分だが、それを見たとき自分がどうなってしまうのかが不安だった。
おそらく今、この家の中では、禁じられた遊びが繰り広げられていることだろう…。
聞くのと見るのとは違う…。果たして平常心を保っていられるだろうか…。
何故か盗人のように息を殺し、そっと音をたてず格子戸を開けて、足音を忍ばせその奥へ進む。玄関の引き戸も鍵は掛かっておらず、滑りの良い引き戸は音もなく開いた。
たたきの小上がりに、そっと腰を下ろす。
真っ昼間だと言うのに、薄暗い玄関は、足元の間接照明が仄かに灯り、下駄箱の飾り棚には、りんどうや小菊、ワレモコウが花器に生けられ、ほんのりと薫る小菊が秋の風情を醸し出していた。
小上がりの上には見事な芍薬が描かれた屏風が立てられ、その奥の襖の方から、微かに漏れるか細い声。
「…ぁ…っ…ぁぅっ……あぁ…んっ…っくっ…」
少女の甘い声と、小菊の薫りが絡み合う…。
松岡の胸は熱く昂る…。
黒い革靴をそっと脱ぎ、足音を忍ばせて襖に近づく。
襖の引き手に指をかけ、ゴクリッ…と生唾を飲み込んだ。
……カコーーン……カコーーン……
鹿威しの音が静寂を斬る。松岡の鼓動も煽られるように高鳴っていた。
松岡は、暫く振りに中條家へ向かった。
「こ、これは松岡先生。お久しぶりでございます。今日はどのようなご用件で?…」
突然の訪問に、北川が少し慌てた様子で訊ねた。
「あぁ、前々から中條に頼まれていた物が、漸く完成したんでね。少しでも早く届けようと思って。中條は居るのかい?」
「あ、はい。いえ、あ…あのぅ…その…只今お坊っちゃまは…その…」
「ん?どうした?居るのか?居ないのか?」
「あ、はい。確か蕾お嬢様と離れにいらっしゃるかと…」
「あ、そう。では行ってみるよ」
「あ、先生。今はちょっと…その…お取り込み中かと…」
「…なるほど…そう言うことか…。フフッ。ちょうどいい。コイツが役に立つよ」
手にしていた、小さな黒い鞄を少し持ち上げて北川に見せると、戸惑う北川を横目に離れへと向かった。
格子戸の前に立ち、松岡は僅かな緊張を覚えていた。中條の少女趣味については、十分理解し、その後始末を何度も請け負ってきた松岡だが、実際に少女が中條に貪られている光景を見たことがなく、少女趣味ではない自分だが、それを見たとき自分がどうなってしまうのかが不安だった。
おそらく今、この家の中では、禁じられた遊びが繰り広げられていることだろう…。
聞くのと見るのとは違う…。果たして平常心を保っていられるだろうか…。
何故か盗人のように息を殺し、そっと音をたてず格子戸を開けて、足音を忍ばせその奥へ進む。玄関の引き戸も鍵は掛かっておらず、滑りの良い引き戸は音もなく開いた。
たたきの小上がりに、そっと腰を下ろす。
真っ昼間だと言うのに、薄暗い玄関は、足元の間接照明が仄かに灯り、下駄箱の飾り棚には、りんどうや小菊、ワレモコウが花器に生けられ、ほんのりと薫る小菊が秋の風情を醸し出していた。
小上がりの上には見事な芍薬が描かれた屏風が立てられ、その奥の襖の方から、微かに漏れるか細い声。
「…ぁ…っ…ぁぅっ……あぁ…んっ…っくっ…」
少女の甘い声と、小菊の薫りが絡み合う…。
松岡の胸は熱く昂る…。
黒い革靴をそっと脱ぎ、足音を忍ばせて襖に近づく。
襖の引き手に指をかけ、ゴクリッ…と生唾を飲み込んだ。
……カコーーン……カコーーン……
鹿威しの音が静寂を斬る。松岡の鼓動も煽られるように高鳴っていた。