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口琴
第15章 守るべきもの
さっきまで冷静だった聖が、少女の事でムキになり、今にも噛みつきそうな形相だ。

鍵はこの少女にある。

森下は確信した。

冷静さを欠いている少年に訊問するのは困難だ。少年が少女について口を割ることはないだろう。ここは、少女から直接訊き出すのが賢明だと判断した。

隠そうとしている少年がそばにいては、真実を話さないだろう。それに少年の容疑は飽くまでも放火。容疑が晴れた以上、ここに拘束することはできない。

この裸足の少女は一体何者なのか…
中條との関わりは…
少年が頑なに少女を守ろうとしていることは…
森下の中で、疑念が膨らんでいく。


セブンが、首にかけたタオルで汗を拭きながらやって来た。

「先生、両親に連絡は?」

「多分公演の真っ最中だと。一応父親の携帯に留守電を入れてはありますが…今日中に戻れるかどうかは…」

「そうですか。ありがとうございました。彼は、あの火災には関与していない事が、先程立証できました」

「そうですか!よかったぁ~!じゃぁ、これで連れて帰っても?」

「はい。あの…桜木先生。彼に妹は?」

「え?彼は一人っ子ですが?…」

聖はセブンを睨み付けると、固く拳を握って俯いた。

森下は、聖を横目で見ながら蕾をセブンの前に立たせた。

「では先生、この子をご存じで?」

「ん?外国人?…小学生ですな?…名前は?」

「…彼は『蕾』と」

「ん~?申し訳ない。この辺の小学校を当たってみては?」

「はい。そのつもりです。ありがとうございました」

「彼は、私の家で預かります。両親には連絡しておきます」

「…そうですか。では、宜しくお願いします」

「この子も、うちに…」

「いえ。調べたいこともありますし、責任を持って保護しますので。ありがとうございます。では、彼をお願いします」

「はい。ほら大崎、ちゃんと挨拶しろ」

セブンが、聖の頭を押さえてお辞儀させようとした時、聖はセブンの手を振り払い、蕾の手を掴んで駆け出した。

「蕾っ!走れっ!」

「おいっ!こらっ!待てっ!」

ドアを飛び出し、数メートル廊下を走った所で二人は呆気なく捕らえられてしまった。

「蕾っ!蕾ーーっ!」

「やっーー!離してっ!聖くーーんっ!」

繋ぎ合っていた二人の手が離れていく。



この日以来、二人が手を繋ぐことはなかった。
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