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口琴
第16章 妹の体温
「つぼみぃ~、ちょっと待ってったら~。まだ髪が決まんないのぉ~」

「瑞希、早くしないと遅刻するわよ」

「分かったってば」

「お姉ちゃん、そこまで一緒に行こう」

「うん。あずちゃん、通知票楽しみだね?」

「うん!あず、二学期も頑張ったの。だからサンタさんきっとプレゼント持って来てくれるよね?エヘッ」

「ウフフッ、きっとね?」

「お待たせ~。いいなぁ、二人とも。勉強が得意で。あたしバカだから。通知票…憂鬱だなぁ…。特に数学と英語…。また、キミちゃんに怒られるよ…」

「瑞希、大丈夫だよ?また一緒に勉強しよう?」

「蕾、ありがと」



あれから、三年の歳月が経った。

蕾は十三歳。中学一年生。梓は七歳。小学一年生になっていた。

ここは児童養護施設。『あすなろの家』

蕾は梓と一緒に、自宅から遠く離れたこの施設で暮らしていた。

身寄りのない子どもや、家庭の事情で親と暮らす事ができない子どもの集うこの家。施設長の吉田 キミ子が十数人の子ども達の母親代りになって面倒を見ている。

蕾も梓も、優しいキミ子や仲間達に囲まれ、すぐに馴染むことができたが、蕾の心は、三年前の深い傷跡が癒えないまま…。

そして、蕾の胸に色褪せることのない聖との想い出。

片時も、彼と彼のハーモニカの音色を忘れる事はなかった。

逢いたい…聖君…。


蕾の義父、佐山 敬介は、森本 彩乃を利用し、中條殺害を企て犯行に至った事が分かり、放火殺人の罪と、未成年の娘を中條に売った児童売春の罪で指名手配され、五億近い金を持って、海外へ逃亡を謀ろうとしたところを逮捕された。

梨絵もまた、敬介の罪を知りながら手助けしていた事で逮捕されたが、敬介の暴力によってマインドコントロールされていたことが分かり不起訴となった。
しかしその後、精神を深く病み、子どもを育てる事が困難だと言う医師の診断で、梨絵は海の見えるホスピタルで療養することになったのだ。

また、中條は未成年の少女の買春、海外への人身売買を行った事が次々に判明。容疑者死亡のまま、書類送検、家宅捜査が行われた。
喉に火傷を負い声を失った北川も、犯人幇助の罪で逮捕。
少女の堕胎手術など、無免許で医療行為を行った松岡や、戸籍の改竄を行った公人、中條の悪事に関わったとみられる多くの人物が、芋づる式に逮捕されるなど、前代未聞の事件となった。
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