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口琴
第16章 妹の体温
蕾と梓の人権は辛うじて守られていた。
ごく稀に、過去を詮索して好奇の眼で見る輩もいないわけではなかったが、この町の穏やかな地域性と、キミ子や仲間の支えで、周囲に差別を受けることなく安心して生活を送ることができていた。
明日から冬休み。午前中の終業式を終え、蕾は同じ施設に暮らす同級生の瑞希と一緒に、帰宅。
「ただいまー。キミちゃん」
「二人ともお帰り。手を洗ったらお昼にしましょ?」
「はーい」
蕾は少し背が伸びて、髪はボブカット、黒いセーラー服に白い肌が際だって、より美しい少女に成長していた。
「早速だけど、二人とも通知票出して?」
「はい」
蕾はすぐに、キミ子に通知票を渡す。
「あ~、学校に忘れて来ちゃったかも…」
瑞希は誤魔化そうとしが、キミ子には通用せず、キミ子は黙って手を出した。
「…やっぱダメか…」
観念して、瑞希も渋々渡した。
キミ子は二人の通知票に目を通す。
「うん。蕾、よく頑張った。三学期もこの調子でね?でもあんまり無理しちゃ駄目よ?」
「はい」
「はーい。私も無理しませ~ん」
瑞希がおどけながら、パスタを口に運ぶ。
「瑞希!あんたは少し無理しなさいっ!」
「アハハッ!」
食卓が笑いに包まれる。
幸せだった。
こんなに穏やかな時間が、自分に訪れるなんて、蕾は思ってもみなかった。
「キミちゃん…。お願いがあるの…」
「ん?クリスマスプレゼントなら、ちゃんと用意してあるよ?」
「ううん…。そうじゃないの…」
「?…」
「私、これから行きたいところがあって…」
「う~ん、ごめん。今日は私忙しいからなぁ~。クリスマスパーティーの準備しなきゃ。ショッピングモールなら、瑞希と二人で行ってきな?」
「ううん。一人で行きたいの。前に住んでた街。どうしても、逢いたい人がいて…。お礼が言いたくて…。それに、母のお見舞いにも…」
「…そっか…ちょっと心配だけど…。一人で大丈夫?嫌な事を思い出すんじゃ…」
「大丈夫。お願いします」
蕾が深々と頭を下げた。
「蕾、あたしも一緒に行こうか?」
「ありがと。でも一人で行きたいの」
「…そっか…」
「キミちゃん…少しの間帰れないけど…梓をお願いします。それから、これ、梓に…」
赤いリボンの包みをキミ子に渡した。
ごく稀に、過去を詮索して好奇の眼で見る輩もいないわけではなかったが、この町の穏やかな地域性と、キミ子や仲間の支えで、周囲に差別を受けることなく安心して生活を送ることができていた。
明日から冬休み。午前中の終業式を終え、蕾は同じ施設に暮らす同級生の瑞希と一緒に、帰宅。
「ただいまー。キミちゃん」
「二人ともお帰り。手を洗ったらお昼にしましょ?」
「はーい」
蕾は少し背が伸びて、髪はボブカット、黒いセーラー服に白い肌が際だって、より美しい少女に成長していた。
「早速だけど、二人とも通知票出して?」
「はい」
蕾はすぐに、キミ子に通知票を渡す。
「あ~、学校に忘れて来ちゃったかも…」
瑞希は誤魔化そうとしが、キミ子には通用せず、キミ子は黙って手を出した。
「…やっぱダメか…」
観念して、瑞希も渋々渡した。
キミ子は二人の通知票に目を通す。
「うん。蕾、よく頑張った。三学期もこの調子でね?でもあんまり無理しちゃ駄目よ?」
「はい」
「はーい。私も無理しませ~ん」
瑞希がおどけながら、パスタを口に運ぶ。
「瑞希!あんたは少し無理しなさいっ!」
「アハハッ!」
食卓が笑いに包まれる。
幸せだった。
こんなに穏やかな時間が、自分に訪れるなんて、蕾は思ってもみなかった。
「キミちゃん…。お願いがあるの…」
「ん?クリスマスプレゼントなら、ちゃんと用意してあるよ?」
「ううん…。そうじゃないの…」
「?…」
「私、これから行きたいところがあって…」
「う~ん、ごめん。今日は私忙しいからなぁ~。クリスマスパーティーの準備しなきゃ。ショッピングモールなら、瑞希と二人で行ってきな?」
「ううん。一人で行きたいの。前に住んでた街。どうしても、逢いたい人がいて…。お礼が言いたくて…。それに、母のお見舞いにも…」
「…そっか…ちょっと心配だけど…。一人で大丈夫?嫌な事を思い出すんじゃ…」
「大丈夫。お願いします」
蕾が深々と頭を下げた。
「蕾、あたしも一緒に行こうか?」
「ありがと。でも一人で行きたいの」
「…そっか…」
「キミちゃん…少しの間帰れないけど…梓をお願いします。それから、これ、梓に…」
赤いリボンの包みをキミ子に渡した。