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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第1章 第一話―其の壱―
 お絹は元気そのもので、か弱い女の身で夜泣き蕎麦の屋台を軽々と引く頼もしい母であった。それが病魔によっていともあっさりと生命を奪われた。もし、お彩が流行病になぞかからねば、看病をした母が生命を落とすこともなかったろう。母を殺したのは自分だ―と、お彩は我と我が身を責めた。
―心に花を咲かせるんだよ。
 それが働き者の母の口癖であった。
―たとえ貧乏でもその日暮らしでも、心に自分だけの花を持っている人はけして卑屈になったりなんかしない。
 上に何とかがつくほどのお人好しで、困った人を見ると放っておけない。自分のことなんか後回しどころか、身に危険が及んでも他人のために奔走する。優しくて涙脆くて、働き者で、そして何より父を、良人である伊八を心底愛していた。そんな母をまた父も愛し、二人はお彩が見ても判るほど仲睦まじい夫婦であった。
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