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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第31章 第十二話 【花見月の別れ】 其の弐
―心に花を咲かせるんだよ。小さくても良い、この世にたった一つしかない、自分だけの花を咲かせるんだ。
 自分のことより他人の身をいつも案じて、他人のためには危険も顧みず奔走していた母。
 その母がいつもそう言っていた。母は近隣でも評判の美貌であった。だから、父伊八は、たとえ蕎麦屋とはいえ、夜間に出歩く仕事を女房にさせたくはなかったのだ。が、お絹がその父―つまり、お彩には祖父から受け継いだ夜泣き蕎麦屋の仕事をどれだけ大切にしているかをよく知っていたからこそ、お絹のさせたいようにさせたのだ。
 外見は全く似ても似つかない二人なのに、何故か、お彩は、おさきの笑顔に亡き母の花のような笑顔を重ねずにはいられなかった。
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