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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第32章 第十三話 【花残り月の再会~霞桜~】 其の壱
 主人の喜六郎も雇い主としては申し分のない人であったし、お彩も気心が知れている。もし同じ場所で働けることができるのならば、「花がすみ」で働きたいと思ったのだ。
 一年ぶりに「花がすみ」の暖簾をくぐるときは、流石に敷居が高かった。一年前、伊勢次と駆け落ちも同然に江戸を離れる際、喜六郎に挨拶もせず逃げるように去っていった身である。一体、どんな顔をして喜六郎に逢えば良いのか、奉公先が見つからないからといって、今更のこのこと顔を出すのも厚かましいかもしれない。様々な思惑が脳裡をかすめたが、結局、勇気を振り絞って「花がすみ」を訪ねることにしたのだった。
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